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メタルビーズ教室 
by mareemonte





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メタルビーズ教室

・横浜教室
平日行っております。
ご希望の方は
hayatayuko@gmail.com
へご連絡頂ければと思います。
詳細をご連絡致します。

メタルビーズ教室は分教室は一切ございません。





ご質問等は
mareemonte@excite.
co.jpまで。内容によってお答え出来ないこともありますのでご了承下さい



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天星小輪・3
天星小輪・3_b0048834_2216203.jpg










「迎えの車を出してくださってありがとうございました。ロールスロイスだなんて。」
「よかったわ、役に立ったのね。あの車は室内が広いから便利でしょう」
「はい、とても。」
「ロールスロイスで娘は学校に行っていたのよ」
「え、そうなんですか?」
「あの車のよさはね、広くて豪華なだけではないの。運転手もつくし、警護も乗れる。香港は誘拐が多いから。」
「誘拐対策で、ですか。」
「そうよ。誘拐されて身代金をとられ、肝心の子供は殺され、臓器は売られる。高値でね。そんなことがあるからセキュリティにお金をかけるのはとても大事なことなんです。」






メイドが小さな椀を両手で大事そうに運んできた。





「これは何ですか?」
「燕の巣です。どうぞ。」
「燕の巣って、家庭で食べるものなんですか。」
「そうね、我が家では。」
「あの、この器って。」
「翡翠です。」

厚みのある翡翠の椀は小さいのにずしりと重い。きめ細かい肌をしており、ひんやりと冷たかった。椀の表には猛々しい龍が空に登っていく絵が刻まれている。添えられた蓮華も翡翠で、これは薄い造りだった。燕の巣を蓮華ですくって口に運ぶ。冷たい石と暖くて甘い燕の巣が入り交じる感触。



「おいしい。」




「これ、どうやって作るんですか?」
「水に戻した燕の巣を2時間くらい火にかけます。味付けは氷砂糖。私達は毎日これを欠かさず食べます。朝起き抜けが一番いいのよ。吸収率が違うのね、起き抜けは。」
「お嬢様、アメリカでも食べていたんですか?」

「いえ、食べていなかったんです。」
令嬢が口を開いた。
「アメリカでは初めて食べたピザがおいしくて毎日ピザばかり食べていたんです。」
マダムが続く。
「そうしたらこの子、アメリカに行って3か月で10キロ太ったの。」
「10キロも。」
「そう。娘に会いに行って驚いたわ。すごく足が太くなってて。だからクリスマス休暇は香港に戻らせて私が毎日マッサージと足のバンテージをしたんです。それで10キロ戻しました。」


中国美女の絵画を背に座っているマダムが燕の巣を口に運ぶ。絵の中の美女は纏足をしていた。バンテージでぐるぐる巻きになった足と纏足。ぼんやりと絵を眺める私にマダムが気がついた。

「バンテージは纏足ではないのよ。」
「え?あ、いえ、そんな、そんな、あの。」
「纏足は中国の女を家の中に閉じ込めておく為のものでした。足の指を折り曲げてそのまま纏足をすればまともに歩くことだって出来なかった。それは女の意志ではない。バンテージは女の意志です。自分の目指す足の形を自分で作ることが出来ます。だけどね、悲しいことに纏足をしている女が持つ美しさというものがあるんです。鬱屈した処にしか宿らない美があります。私は中国大陸の美をつくる商売をしている。この美しさも受け入れなければいけない。だからあえてこの絵を飾っているのよ」



私は黙り、マダムも令嬢も口を開かなかった。
翡翠の蓮華が燕の巣をすくう小さな音だけが響いている。






「あの、お手洗いをお借りしてもよろしいでしょうか。」
「ええ、もちろん。」
マダムがメイドに目をやり、案内するように言っている。私はメイドの後ろについていった。ふとダイニングの奥を見る。すぐが台所になっていた。切り株のような大きなまな板と中国包丁が置いてある。その奥がメイドの部屋だ。台所と同じタイル続きの床。化粧のはがれた薄い緑の漆喰の壁には左右に紐が渡してあり、一面に洗濯物が干されている。家具は二段ベッドだけでその傍に日焼けて色褪せたイエス・キリストの絵が画鋲でさしてあった。
by mareemonte | 2007-01-22 07:53 | | Trackback
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